2020年5月3日日曜日

旅客営業規則70条と新幹線に関する2019年現在の最新解釈


茨城県の常陸太田駅から千葉県の浪花駅までの乗車券です。上野~東京間で新幹線経由のため東京近郊区間から、外れ途中下車可能となっています。営業キロは240.4キロ、運賃計算キロは242.4キロのため運賃は4,510円、有効期限は連続1(水戸~常陸太田)の有効期間1日を足して4日間となっています。
しかしながら、結論から言えばこの乗車券は誤発券でした。「支社内での確認」と称して30分以上も待たせておきながら、です。そして後日、本社のお客様センターに問い合わせ、およそ2ヶ月かけて最新の解釈を伺いましたので下記にてご説明したいと思います。


まずこの乗車券がどういった点で誤発券なのかについて解説します。
表題および前文をご覧になった方はお分かりの通り、この乗車券は上野~東京間を新幹線経由としており東京近郊区間から外れるため、実際に乗車する通りの経路で購入する必要があります。もっとも大都市近郊区間内相互発着の乗車券であっても、最短経路にて発券しなければならないという規定ではないため、厳密には誤発券とはなりません。
この乗車券は、東京~蘇我間を京葉線経由としています。これは実際に乗車する列車の特急「さざなみ」号が京葉線経由のためですが、東京~蘇我間は旅客営業規則第69条の「経路特定区間」にあたり、京葉線経由の列車に乗車する場合も総武線経由の乗車券を発売しなければならないことになっています。山科~近江塩津間で、米原経由の列車に乗車する場合であっても近江今津経由の経路で発売することは有名かと思いますが、この区間もその対象となっています。そのため、上野~新幹線~東京~京葉~蘇我の経路は、上野~新幹線~東京~総武~外房~蘇我の経路に補正しなければなりません。(下図の赤線→青線)
(クリックで拡大)
さて、ここで規則第70条が登場します。規則第70条は、東京山手線内および周辺の路線(上図の黒線)を通過利用する場合、通過する区間内は最短経路で運賃計算を行う、というものです。今回対象となる区間は日暮里~錦糸町間で、最短経路は日暮里~東北線~秋葉原~総武線~錦糸町となります。この経路で計算すると営業キロ237.0キロ、運賃計算キロ239.0キロとなり4,070円が正当となります。(ちなみに、今回は皆さんに馴染みのある規定を用いて説明しましたが、この2つの規定を組み合わせて経路の補正を行う、という規程が第70条第2項にも記されています。)
ただし、ここで問題となるのが、この経路で乗車券の発売ができるかどうか、東北新幹線に乗車できるか、あとは乗車券の有効期間かと思います。乗車券の発売については、経路の補正により大都市近郊区間内相互発着となりましたが、先にも記したとおり大都市近郊区間の規程は最短経路での発売を強制するものではないため、迂回経路で運賃計算を行った乗車券の発売も可能です。また、補正後の経路に重複もないため、この経路の乗車券を発売することが可能です。
一方で、東北新幹線への乗車についてはどうでしょうか。規則第69条および第70条の対象となる乗車券については、規則第158条および第159条の定めにより、迂回乗車ができます。すなわち今回の例では、日暮里~蘇我間を、上図の黒線・赤線・青線内において迂回乗車が可能ということです。東北新幹線は東京~盛岡間は東北本線と同一視しますので、したがってこの乗車券でも東北新幹線に乗車することは可能です。


ここまでのところは規則に明文化もされておりJR側と解釈に差異はなかったのですが、乗車券の有効期間および途中下車の可否については微妙なところです。以下に条文を示します。
規則第154条
乗車券の有効期間は、別に定める場合の外、次の各号による。
(1)普通乗車券
イ 片道乗車券
営業キロが100キロメートルまでのときは1日、100キロメートルを超え200キロメートルまでのときは2日とし、200キロメートルを超えるものは、200キロメートルまでを増すごとに、200キロメートルに対する有効期間に1日を加えたものとする。ただし、第156条第2号に規定する大都市近郊区間内各駅相互発着の乗車券の有効期間は、1日とする。
(略)

第154条第2項
第69条から第71条まで及び第86条から第88条までの規定によって、旅客運賃の計算をする普通乗車券の有効期間は、その旅客運賃を計算する場合の営業キロによって計算する。この場合、運賃計算キロによって旅客運賃を計算するときにおいても、当該区間の営業キロによる。
JR側の解釈としては、第154条第2項の定めにより、この乗車券の有効期間は運賃計算経路によって決まるため、常磐~日暮里~東北~秋葉原~総武~外房の経路は大都市近郊区間内相互発着にあたり、有効期間は1日で途中下車も不可、とのことでした。
ただし条文をよく読むと、有効期間は「旅客運賃を計算する場合の営業キロによって計算する」と記されているものの、大都市近郊区間内各駅相互発着であるか否かの判断を運賃計算経路で行うとは記されておらず、第156条第2号にもその判断基準は明確化はされていません。また、第69条および第70条の条文を見てみると、
第69条
第67条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる区間の普通旅客運賃・料金は、その旅客運賃・料金計算経路が当該各号末尾のかっこ内の両線路にまたがる場合を除いて、○印の経路の営業キロ(略)によって計算する。この場合、各号の区間内については、経路の指定を行わない

第70条
第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を通過する場合の普通旅客運賃・料金は太線区間内の最も短い営業キロによって計算する。この場合、太線内は、経路の指定を行わない
とされています。すなわちこの乗車券は、運賃計算を日暮里~東北~秋葉原~総武~錦糸町~蘇我の経路で行ったものの、この区間内は経路の指定を行わないことになっています。すなわちこの乗車券は、大都市近郊区間内相互発着であるともないとも規則の上では断定できない状態です。しかしながら、JR東日本の解釈としては、明文化はされていないものの、有効期間の算出を運賃計算経路の営業キロに基づいて行うのと同様、大都市近郊区間内相互発着であるか否かの判定についても運賃計算経路に基づいて行う、という結論のようです。ここについては明確な回答が得られませんでしたが、これがおそらく記事執筆時点で有効な最新の解釈です。

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