2017年5月20日土曜日

北朝鮮の都市「恵山」を望む中国の小さな町「長白県」に日本人が1人で行ってみた(導入編)


恵山市(ヘサンし、혜산시)は朝鮮民主主義人民共和国北部の両江道の道都。鴨緑江に面した中国との国境の町である。国境となっている鴨緑江が、この周辺では狭くまた浅くなっているため、密貿易が盛んである。2008年時点の人口は国内20位で約19万人。(Wikipediaより)
…そんな恵山市の対岸にあたるのが中国の「長白鎮」(长白镇)である。最寄りの駅まではバスで約4時間という、文字通り「辺境」の町だ。(もっとも実際の最寄り駅は朝鮮の恵山青年駅だが…。)とはいえ人口は百度百科によれば3.4万人と意外に多い。日本では境港市や鴨川市などがほぼ3.4万人のようだ。そんな辺境の町だが、外国人も問題なく(?)滞在することができる。そう聞けば訪れてみたくなるもので、実際に訪れてみた。
全体の旅程としては、こうだ。まずは飛行機でハルビン(哈尔滨)に着き、そこから列車を乗り継ぎ延辺朝鮮族自治州の延吉まで行く。延吉までいけば最寄り駅というわけではないが長白までの直行バスがある。帰りは鴨緑江沿いにバスで臨江(临江)まで出て、そこからは列車を乗り継ぎ次の目的地、丹東(丹东)へ向かう。列車やバスの時刻はネットですべて調べ上げた、完璧な計画だ。

夜行列車の車窓
というわけで、まずは夜行列車で延吉へ。今回は初の単身中国訪問、そうでなくても訪中経験は2回目という状態だったがここまでは余裕である。(逆に言えばそんな状態で長白くんだりに訪れるとは今になって考えれば我ながら勇気があると思う。しかも日本出発のまさにその日に朝鮮がミサイルを打ち上げるなんてイベントもあったり…)
(K1055次)長春 18:55 ⇒ 延吉 翌04:45

延吉市内の様子(クリックで拡大)
一帯は「朝鮮族自治州」というだけあって朝鮮族の比率がかなり高い地域で、街中の看板はことごとく漢字と朝鮮文字が併記されている。中国でも(北朝鮮レストランや韓国料理店などを除けば)このあたりでしか見られない。もちろん事前リサーチで知ってはいたものの、いざ目の当たりにするとさすがにテンションが上がる。朝5時だけど。
事前情報ではバスターミナルは市内に複数あるが、長白いきのバスは駅の目の前にある「公鉄分流バスターミナル」(公铁分流客运站)から発着する、はずだった。がしかし規模はかなり小さく(とはいえ日本の感覚からすればそうでもないのだが)、乗り場案内に長白の文字はない。待合室には時刻表すらない。少しだけ嫌な予感がしたので、別のバスターミナルに向かってみる。朝5時だし。バスの時間までは3時間以上ある。

延吉市内の建築(クリックで拡大)
文字もさることながら、建物にも特徴がある。ハルビンは中央大街などもあり有名だが、東北部全体にどことなくロシアのような雰囲気がある建物が散見される、ような気がする。おそらく一時的にロシアの実効支配下におかれた歴史があったのだろう。詳しいことは調べたがよく分からなかった。

延吉市東北亜バスターミナル(延吉市东北亚公路客运站)(クリックで拡大)
街並みを眺めながら、タクシーの客引きから逃げながら、とぼとぼ歩いて到着したのは「東北亜バスターミナル」(东北亚公路客运站)。とてつもなく大きな建物であるが、中国ではこれが普通なのである。この大きさなら間違いなかろうと安堵する。

延吉市東北亜バスターミナル(延吉市东北亚公路客运站) 時刻表(班次表)(クリックで拡大)
延吉市東北亜バスターミナル(延吉市东北亚公路客运站) 運賃表(票价表)(クリックで拡大)

中に入るが、荷物検査もきっぷ売り場も係員がいない。仕方がないので荷物検査は素通りし、時刻表を探す。すると巨大な時刻表に「長白県」(长白县)の文字をみつけた。発車時刻は8時30分、やはりここで合っていた。ここでほっと一安心である。安心したら腹が減ったのと、そもそもきっぷ売り場すら無人の状況なので隣の食堂で朝ごはんを食べる。


食事を済ませて戻るとさすがに係員も配置についていた。きっぷ売り場で長白県いきのきっぷを購入しようとするが…


オバチャン「啊~…明天!」(あ~、明日しかないね)
ワイ「啊!?明天!?」(え!?明日!?)

完璧だったはずの計画ががたがたと音を立てて崩れ去った。
ぐちぐち言っていても仕方がないので、再び時刻表とにらめっこし、何とか代案を探す。少しでも南下できるルートはないか、巨大な時刻表をくまなく探した。そうしたところ、長白県いきのすぐ下に二道白河いきのバスをみつけた。発車時刻は6時40分。事前情報によれば二道白河のバスターミナルはそこそこの規模で、長白山(朝鮮語では白頭山、中朝国境に位置する山で、朝鮮では金正日が生まれた聖山とされている)の山頂に行く登山バスも発着しているらしい。とりあえず二道白河に行けばもしかすれば…とわずかな希望を胸にきっぷ売り場へ。

吉林省高速バス乗車券(公路客运车票) 延吉→二道白河
すると何ともすんなり二道白河いきのきっぷを購入することができた。どこまで行けるか分からないけどとにかく南下するしかない。少し不安に思いつつも二道白河いきのバスに乗り込む。


中国の高速バスにはダイヤという概念が弱いのか、どれだけ調べても出発時間しか出てこない。途中経由があるのか、ないのか、終着駅には何時に着くのか、といった情報は一切出てこない。しかしながら何故か途中のバス停でも何でもないところからドンドコ人民が乗ってくる。そしてそのたびに車掌が乗車区間を聞き運賃を収受する。どういうシステムなのかさっぱり分からないが、人民は外国人が見れない微信のアプリか何かで調べることができるのかも知れない。中国ならあり得る話だ。などと考えつつバスに揺られる。
だがおちおち考え事をしている場合ではない。今はまだ白河までの旅程しか立っていないのだ。その後を調べなければならない。ということでネットを駆使しバスに揺られながら必死に情報をかき集める。すると何とあの中国バックパッカー紀行さんとほぼ同じスケジュールに乗っているということが分かった。神に救われた気がした。どうやら白河10:20発の列車に乗れれば更にその先の松江河でバスに乗り継げるらしい。列車の時刻は公式サイトで確認できるが、バスのほうが調べてもなかなか出てこない。先のブログに載っている情報が変わっていないことを祈るしかないか、ともやもやした気持ちになりつつ、そもそも白河に10時に着きますようにと、携帯の地図とにらめっこしながらバスに揺られる。

二道白河バスターミナル(二道白河客运站)
二道白河バスターミナル(二道白河客运站)時刻表(班次表)(クリックで拡大)
(1364次)延吉 06:40 ⇒ 白河 10:00
二道白河に着いたのは10時少し前、これほど嬉しかったのはいつ振りだろうか。しかし何故かバスターミナルに入る直前のところで止まりドアが開いた。人民たちは普段せっかちな癖に誰一人立ち上がらないがこちらはおちおちしていられないので、とりあえずバスを飛び降りた。バスの時刻表がバスターミナルの入口に掲示されていたので念のため調べたが、更に南下するバスは当面ない。足早にバスターミナルを去り駅へと向かう。

白河駅(白河站)外観
白河の駅はやたら小綺麗でこれまた異国の宮殿のような佇まいである。がやはりここでも呑気に写真を撮っている暇はない。斜めになった写真を確認もせず足早にきっぷ売り場へ向かう。中国の鉄道は日本とは違い発車時刻になる前に改札が閉められ、駆け込み乗車ができないのだ。
(4246次)白河 10:20 ⇒ 松江河 12:29


時間も時間なので、車内で昼飯がてらカップ麺を食す。中国の列車には各車両に給湯器がついており、熱湯が無料で提供されている。また車内販売でカップ麺を購入した場合ワゴンに熱湯入りのポットが設備されており、その場でお湯を注いでもらえる、ということもあるようだ。

松江河駅(松江河站)外観
無事、松江河に到着。中国バックパッカー紀行さんのページには「バスターミナルまで路線バスで移動した」と記されていたが、どうも列車の中で百度地図を見る限りバスに乗るような距離ではなさそう。ということでとりあえず地図の指す方向へ歩いてみる。時間がギリギリということもなさそうなので、もしまた延吉のときのように間違いがあればタクシーでも乗ればいい。

(クリックで拡大)
ということで線路沿いを歩く。さっきまで乗ってきた列車はまだ止まったままだ。

松江河バスターミナル(松江河客运站)外観(クリックで拡大)
ほどなくしてバスターミナルに到着。かなり新しい建物なので、やはり新築移転したのだろう。とりあえず中に入ると、安全検査の手前にきっぷ売り場があった。


目的地を告げ、難なくきっぷを購入。これで今日中に長白まで到達できることがようやく確定した。ほっと一息。


松江河バスターミナル(松江河客运站)内装
ということで、落ち着いて辺りを見回してみる。やはり建物はまだ真新しく、新築のようだ。トイレは水が流れず大きなバケツに汲み置かれたものを桶で流す、という方式だったもののとても綺麗(中国国内比)だった。掲示物もくまなく探すが、ここにもやはり時刻表はなかった。


そして本日の最終走者はこちら。おおよそ30人乗りくらいの中型バスだが私の目にはとても大きく頼りがいのあるように見えた。これに4時間揺られていざ長白へ。バスは全席指定のはずだが、自分の座席には誰かの荷物が鎮座している。仕方ないので荷棚に上げて着席する。
すると発車直前になって乗ってきたネーチャンに荷物はどこへやったんだと絡まれた。アンタが人の座席に勝手に置いとくのが悪いんだろ、と言いたかったがそんな語学力もないので黙って荷棚から荷物をおろして手渡す。

(クリックで拡大)
バス車内には時刻も掲示されていたが、何度も書き換えられた跡があり本当に正しいのか疑わしいところではあるが、これによれば松江河→長白のバスは少なくとも1日に2本、朝6時20分と13時15分があるようだ。

(クリックで拡大)
しかしながらフロントガラスには朝5時15分と13時15分、と記されており、やはり信頼できない…。
バスはやはり道中で人を乗せたり降ろしたりしながら進む。途中で10分ほどトイレ休憩があった。先人の記録によればここでは身分証チェックなどはなかったそうだが、気は抜けない。前方から流れ来る看板に目を凝らす。
しかしながら沿道にある警備小屋はほとんど木材捡査站ばかりだった。1か所だけ武警の部隊がありその門前で停車したが検問所のような雰囲気はなく、念のため人数確認と積荷の検査をしているような感じだけで身分証の検査はなかった。どうやらこのルートは安全(?)のようだ。

恵山市の山々
禿山が見え出したらそれはもう朝鮮側の山。到着もあと少しです。
川沿いの道に入り少し走ると、马鹿沟镇という集落に到着。ちなみに新字体で書くと「馬鹿溝鎮」。馬鹿は中国語で赤鹿のことで、また溝のような地形になっていたことからこの名がついたようだ。浅学がバレますね…。

車窓から見る恵山の街並み(クリックで拡大)
馬鹿溝鎮で半数近い客を降ろしたバスは川沿いを更に下る。車窓からは早速恵山の街並みがよく見える。

長白県バスターミナル(长白县客运站)外観(クリックで拡大)
そしてようやく何とか事件・事故もなく長白に到着。時計を見るとまだ16時少し前で、実のところ4時間もかからなかった。
(1099次)松江河 13:15 ⇒ 長白 16:00

しかしながら到着して一安心というわけでもない。中国の宿は外国人NGというところも多く、予約はしてあるものの油断はできない。しかもここは文字通り「辺境」の地。断られたところで脱出する術もないので、何とかして代わりの宿を見つけなければならない。そんな事態は何としても避けたいものだが、こればかりは祈る以外に方法がない。

(クリックで拡大)
しかもバスターミナルの目の前の道がこの通り未舗装(と思い込んでいたが後日よくよく観察してみたところコンクリ舗装の上にゴロゴロと大石が大量に転がっている状態のようだった。とはいえ雨が降らない限りは未舗装と変わらず歩きづらい)。エライところに来てしまった、という感想しかない。

億鑫園ホテル(亿鑫园商务宾馆)外観
今回予約した宿はこちら、億鑫園ホテル。1枚の看板にコンビニと宿と生鮮食品屋が軒を連ねている。中央の黄色の文字が宿の名前だ。ちょうどその真下のガラス扉に「客房部」と書かれていたので、迷わず中に入り階段を上がった。


中国の宿泊予約といえばCtripが有名かつ有力かと思われるが、今回ももちろんCtripで予約してある。(ちなみにCtripの概要については別の記事で説明しています)予約確認メールを印刷してあるので、フロントで提示すると、、、

ニーチャン「コレハ……ナンデスカ?」

(事件編へ続く)

関連記事:北朝鮮を眺めながら天然温泉に浸かれる中国の温泉施設「丹東江戸温泉城」に行ってみた

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